7月の学長通信

「大阪労働学校・アソシエ」の講義へのお誘い
 本校の講義に関心のある方々の聴講を歓迎いたします。いつでも、ご都合のつくときにご参加下さい。場所:学働館3階・講義室・図書室。
 聴講ご希望の方、およびお問い合わせは、下記の所にご一報下さい。
 〒550-0021 大阪府大阪市西区川口2-4-2 学働館・関生内
 Tel 06-6583-5555
 Fax 06-6583-5560
 Mail info@ols-associe.or.jp
 学長 本山美彦

2016年7月の講義予定(講師陣の敬称略)
 (おことわり。各講義の紹介文は、学長の本山が書いたものです。一応、担当講師にはサッと目を通していただいていますが、文責は学長にあります。)

第1限(10時半~12時)「基礎ゼミナール」
 齋藤日出治(元・大阪産業大学副学長) 毎週火曜日(7月5、12、19、26日)
 「必ず克服できる資本主義」
・・・「リスク社会」、「ショック・ドクトリン」」、「原発・市場経済的全体主義」、「マルクスのコミュニズム論」、「関生・連帯経済」、「コモンウェルス」。資本主義を超える道筋について議論をします。
 
 本山美彦(京都大学名誉教授) 毎週水曜日(7月6、13、20、27日)
 「世界を動かしている力とはなにか?」
  ・・・前記最後の授業なので、「経済学における価値意識」をワルラスとパレートを中心に、マルクスをからませながらお話します。

齋藤・本山の両講師 毎週金曜日(7月1、8、15、22日、29日)
「自由討論」
  ・・・講義で感じたこと、疑問、個人の意見を自由に出しあって、意見交換をします。
  加えて、この学校の精神を高め、流布する方策を、講師陣・学生間で話し合います。

第2限(13時半~15時)「社会変革の古典を読む講座」
大賀正行(部落解放・人権研究所名誉理事) 毎週火曜日(7月5、12、19、26日)
 「エンゲルス・『空想から科学へ』を読む」
  ・・・古典をじっくりと読む姿勢を養います。階級的視点とは何かを考えます。

 友永建三(部落解放・人権研究所名誉理事) 毎週水曜日(7月6、13、20、27日)
「森信成『唯物論哲学入門』の読み合わせ」
  ・・・「疎外からの解放と人類の進歩」、「啓蒙主義と空想的社会主義」、「空想より科学へ」を議論します。

 田畑稔(『唯物論研究』編集長) 毎週金曜日(7月1、8、15、22、29日)
 「マルクスのアソシエーション論」
・・・(哲学塾)「〈幸せ〉の吟味―幸福の構造、実質、技法について

(ドイチェ・イデオロギーから)「対抗的連合化」、「エゴイストたちの連合」、「幻想的共同社会」。前期のまとめと感想、講義への要望の時間を前期最終日に取ります。

第3限(16時半~18時)「社会制度の改革を学ぶ講座」
 仲村実(管理職ユニオン代表) 7月11日(月)
 「個人加盟ゼネラルユニオン」  
  ・・・個人参加の産別組合の展望を探ります。
 豊 嘉哲(山口大学経済学部教授) 7月25日(月)
 「EUの労働者」
  ・・・英国離脱後のEUの労働者が迎える運命と対抗策を探ります。
 
生田あい(大阪労働学校理事長、変革のアソシエ、コモンズ編集者) 7月14日(木)
 「社会変革の闘い」
・・・ フランス、ロシア、中国、キューバ、ベネズエラの経験から学びます。

第4限(19時~20時半)「共生・協同社会建設を学ぶ講座」
津田直則(桃山学院大学名誉教授) 7月25日(月)
「協同組合コミュニティ

・・・(その3)オーストラリア・マレーニと韓国・原州協同組合コミュニティ  

 山元一英(全港湾大阪支部委員長) 7月29日(金)
 「労働組合論」
 ・・・「港湾の産別の闘争②」(企業内労組から業種別・産業別労組への転換)

2016年6月に行われた講義の概要
第1限(10時半~12時)「基礎ゼミナール」
 齋藤日出治 毎週火曜日(6月7、14、21、28日)
 「必ず克服できる資本主義」
  ・・・6月は、先進資本主義諸国間の差違とその差違が生まれた要因の比較検討が衷心テーマでした。「経営者と株主との関係」、「労組の特徴」、「経営形態の差違」、「フォード・システムの終焉」を検討項目にして、資本主義の多様な存在形態を確認しました。各国には独自の社会組織編成原理があることを理解することが大事です。
 
本山美彦 毎週水曜日(6月8、15、22、29日)
 「世界を動かしている力とはなにか?」
・・・「資本主義と公共性」、「大恐慌の認識」、「歴史認識のゆらぎ」、等々の検討項目を立て、革命の理想と現実の格差、持続的社会主義建設の可能性を議論し
ました。
齋藤・本山の両講師 毎週金曜日(6月10、17、24日)
「自由討論」
  ・・・講義で感じたこと、疑問、個人の意見を自由に出しあって、意見交換をします。
    6月は、「地域アソシエーション建設の方法と可能性」、映画「シティズンフォー―スノーデンの暴露」を素材として、「自由とプライバシーとの関係」が議論
されました。また、この学校の精神を高め、流布する方策が話し合われました。

第2限(13時半~15時)「社会変革の古典を読む講座」
大賀正行 毎週火曜日(6月7、14、21、28日)
 「エンゲルス・『空想から科学へ』を読む」
  ・・・6月も古典をじっくりと読む姿勢を養いました。6月はとくに、大衆の層と階級との差を論じました。

 友永建三 毎週水曜日(6月8、15、22、29日)
「森信成『唯物論哲学入門』の読み合わせ」
  ・・・「疎外―神・国家・資本」を通して唯物論と観念論の違い、「民主主義」とは多数決や集団認識ではないことを学びました。

田畑稔 毎週金曜日(6月10、17、24日)
 「マルクスのアソシエーション論」
・・・アソシエーション論を中心に据え、現代に生きるマルクスに迫ります。「社会の類型」を考察しつつ、世界観、哲学を持って人生を生きることの意義を考え
ます。6月はルソーを学びました。

第3限(16時半~18時)「社会制度の改革を学ぶ講座」
 永嶋靖久(弁護士) 6月1日(水)
「秘密法・盗聴法・共謀罪」
・・・一昨年、秘密保護法が制定された。今年5月24日に、刑事訴訟法改正案の国会での可決が見込まれている。この秋にも、共謀罪の国会提出が狙われている。「凶
暴」の認定は誰がするのでしょうか?歯止めなく、嫌疑をかけられることが次第に拡大する危険性があります。

  金早雪(キム・チョソル、信州大学社会科学系〔経法学部〕経済学科教授) 6月27日(月)
  「アジアの社会保障」
   ・・・都市化、スラム化を是正する「農村婦女会」、「大韓老人会」、「キリスト  教会系各団体」などの民間の地域福祉活動の成果についてお話します。産業優先で、国家事業としての社会福祉政策の貧困な韓国ではあるが、儒教的「老人奉仕」活動が政治の空白を埋めています。

高橋直志(名古屋外国大学講師)6月8日(水)

  「一次産品市況の乱高下と援助・経済協定をめぐるルール設定の不透明さ」
  「法規範が曖昧な世界での複雑怪奇な秩序と合意形成の難しさ」6月29日(水)
   ・・・ナイジェリアの石油、チリの銅を事例にして、資源ナショナリズムと国際資本との角逐を論じました。チリのアジェンデ政権の米国による圧殺以降、途上
国の国際資本への反抗は弱々しいものになってしまいました。しかしながら、リーマン・ショックを経た現在、多くの途上国で鉱山法制定などによる新たな資源
ナショナリズムの動きが活発化しつつあります。

4限(19時~20時半)「共生・協同社会建設を学ぶ講座」
 津田直則(桃山学院大学名誉教授) 6月20日(月)
「イタリア協同組合コミュニティ」
  ・・・社会的経済を担う協同組合社会を学びます。社会的連帯を強化する有力な手段が協同組合間の連携です。

 山元一英(全港湾大阪支部委員長) 6月24日(金)
 「労働組合論」
  ・・・「港湾の産別の闘争①」(企業内労組から業種別・産業別労組への転換)。6月は、港湾の荷役、沖中労働者を暴力的経営者の魔手から逃れる方策として採用した産
別労働組合が、今日のように大きな力を持つようになった歴史を論じました。

学生レポート
1 学生(A)(6月のレポート)
6月6日水曜日 第一限
「世界を動かしている力とはなにか?」 本山美彦講師
1. 環境にいい農業は存在しない。農業とは稲、小麦、高粱のために他の草木を雑草として刈り取るものである。自作農は農地の生産力を維持するために土地を休ませる。しかし、収穫量で収入が決まり、作物が取れなければ解雇されかねない小作人は、自らが雇われている時だけの収穫しか頭になく、土地を休ませることなく使い捨ててしまう。
2. 大土地所有制が何世代にもわたって被害を与える制度であることを痛感させられる。東北地方は地力を収奪し尽くされ、少し気候が変化しただけで作物が育たなくなってしまう。教科書に書いてある「冷害」とは寒さのせいではなく、土地が痩せていることが原因なのである。
3. 「パブリック」とは公共を意味し、がんじがらめの規制、情報や利害を公に公開する義務を伴う代わりに当局からの保護を受ける。それに対して「プライベート」とは、放任される代わりに、例え潰れようと自己責任。
 商業銀行(コマーシャル・バンク)はパブリックであり、市民の預金を守らねばならず、FRBの管理下に置かれ、国債を買わされる。その対極に位置する投資銀行(インベストメント・バンク)とはプライベートであり、顧客である投資家や富裕層の資産運用を任される。
 アメリカの銀行は自己資本比率が高く、日本はほとんどゼロである。なぜなら米投資銀行は、金持ちたちから訴えられる可能性があるが、政府は助けてくれないので自己資本比率が高い。投資銀行とは日本の銀行には無いジャンルの銀行である。
4. 鉄鋼業は我々のような素人相手の商売ではなく、自動車メーカーなどプロ相手の商売である。どこから製品を買うべきかを把握しているプロ相手の商売は儲からない。こうした儲からない産業へ投資する銀行へ庶民はお金を預けてくれないし、そもそも銀行が投資することもない。そこで日本政府は、全ての産業を育成するために日本長期信用銀行(長銀)を作った。
 長銀は無記名の割引債を発行することで遺産相続を脱税できるので、富裕層が中心になって預けてくれる。普通の銀行がお金を貸さないので、政府が自ら営業していた。しかしアメリカは「護送船団方式である」と非難し、多くの日本人もそれに同調し、都合のいいタイミングでスキャンダルが暴かれ、長銀は潰されてハゲタカ・ファンドのリップルウッドに買収されてしまった。

2 学生(C)(5月のレポート)
1. 5月19日(木) 第3限「世界の水資源の危機」 山本
この講義は「水」をテーマにしたものである。全3回にわたって水道事業の現状を考察し、ひいては水資源の維持や管理、共同利用について生活者の視点で検討するものである。
2. 今回は、世界水資源の危機、第1回目の講義である。
私たちは普段、何の疑いもなく水道利用をしている。しかし、世界的に見てみるとそれは一般的ではない。水道事業というものは、公的ガバナンスが存在する所にしか成立しない。発展途上国などでは、維持管理や水道整備自体がままならず、水道事業を民間に委ねざるを得ないという実態があり、水道事業を民営化した途端、水道料金が高騰したというケースが少なくない。そういった状況の中で、世界には最も貧しい人が、最も高い料金を払っているという現状が存在するのである。
3. いまの社会では水を、お金と対価で交換するもの、いわゆる商品としてしか扱うことができない。しかし、私たちの身体のほとんどは水であり、水なしでは生きていくことはできない。また、水というものは、エネルギーや食糧、そして生活環境や住環境などにもダイレクトに関係する最も重要かつすべての基本となるもの。この水に関しては市場の原理などに任せてはおいていけないという問題意識の下、講義が始まった。
4. 経済学では、天然資源など共有資源については放っておくと乱獲され、結果として枯渇してしまうという法則、いわゆるギャレット・ハーディンの「コモンズの悲劇」という法則をもちだして天然資源などへの所有権設定を肯定する。
5. しかし、コモンズの意味するところは、みんなの物を大切に使うための共同管理の仕組みを指すものであり、地域住民が日常生活のために資源として利用することで維持・管理されてきたいわゆる里山などを指すのである。コモンズは、みんなの物をみんなで管理し、節度をもって使っていくという思想なのである。
6.  いまの社会では、地底の奥底まで所有権設定がなされ、すべての天然資源は市場の論理に委ねられている。事実上、所有権を得た者が、いくらでも好き勝手に使っていいというのが現状である。それはコモンズの危機というべき状況である。その代表格が水資源なのである。
7. 2002年11月、国連は、水は社会的、かつ文化的な公共財であり、そのアクセス(Rights to Water)は一つの人権であり、国には、誰しもが差別なくきれいな水にアクセスすることを保証する義務があると宣言した。
8. 国連加盟国のすべてが、2015年までに達成すべき目標として8つのゴールと21のターゲット項目を掲げた「ミレニアム開発目標(MDGs)」のターゲット7cにおいては、2015年までに「安全な飲料水と基礎的な衛生施設を継続的に利用できない人々の割合を半減する」という目標が掲げられた。安全な飲料水確保の目標は達成できたが、基礎的な衛生設備=トイレについては殆ど達成できていない状況で、世界には、日常的に穴すら掘っていないという状況で排せつ行為をする現実も珍しくない。
9. 現在の水資源の状況は、地球上の水の総量は14億m3でそのほとんどは海水であり、淡水は3%未満である。また淡水の殆どは氷河であり、人間が使える水は地下水や湖沼などに存在する微々たる量でしかない。しかし、それでも人間が生きていく上では十分過ぎる量であり、問題はそれが地理的に偏在していること、すべての人々に公平・平等に行き渡らない状況にあることである。
10.  世界の水の総需要は、年あたり4,000km3である。世界人口の内の7億の人々が水ストレスに直面する状況にある。水ストレスを感じる水準は一人当たり年1,700m3を下回る量とされている。
11. 人口増加と水需要の関係は、1900年の世界人口が16.5億人、現在は73億人、2050年には97億人と人口増加が急速に進んでいく。それに対する水需要は、1900年の段階では約600km3/年、1995年段階では約3800km3/年、2025年には5200km3/年にのぼるといわれている。水需要の増え方の方が人口の増え方よりも、はるかに勢いがあり、今後も増加の一途をたどることが予想されている。
12. このように水需要は、年を追って増大している。アジア開発銀行などもアジアにおける水需要が増加し、それに伴って水市場も80兆円規模に拡大すると予測する。そこへ水ビジネスが参入できる状況が生まれてくるのである。
13. 多国籍企業の水ビジネスの発展過程を見てみると、1997年のアルゼンチンで開かれた国連水会議で「マルデルプラタ行動計画」が採択され、それは先進国の公営水道をモデルとして発展途上国の水道を整備していくというものであった。しかし、発展途上国の多くにおいては財政難に加え、ガバナンスが不十分な状況の下、水道メーターの取り付けや管理などについても事欠く状態で、水道料金の収受もままならず、公的水道整備が遅々として進まなかった。
14. その後、1992年に「水と環境に関する国際会議」で水を経済財として取り扱うべきとしたダブリン声明が出され、2000年の第二回世界水フォーラムにおいては、まさにコモンズの悲劇の法則に則る形で、すべての給水に「フルコスト・プライシング(利用者が水の採取から処分までに至るすべてにかかる費用を全額支払う制度)」を導入することを提唱し、水に対する価格のつけ方などを議論するなど、水市場の自由化・民営化を推進するという多国籍資本の思惑が色濃く反映された内容になった。
15. その後の、MDGsの後継である「SDGs(持続可能な開発目標)」においては、民間企業を主要な実施主体として位置付け、SDGsとビジネスの連携性を謳うのである。
16. そのような国際社会の新自由主義的な動向に歩調を合わせる形で、IMFや世界銀行、アジア開発銀行など国際金融機関が挙って発展途上国に対し融資を行い、多国籍資本に発展途上国の水道事業など公益事業参入の機会を与えていくのである。
17. 水道事業民営化の初期段階においては、水道料金が安くなるケースが多い。しかし、契約の更新・書き換えによって水道料金が次第に上がっていくというのが大体の通例である。これはフルコスト・プライシングによるものであり、それは社会的弱者や貧困層の人々が水供給から除外する。このように水道事業の民営化は、貧困層の人々などの水へのアクセスを困難にし、逆に水不足や格差を助長・拡大させていたのである。
18. 国際銀行などの金融機関や多国籍企業は、公益事業である水道事業を「確実で安定した収益源」として位置づけ、ビジネスとして取り扱う。
19. いま世界の水ビジネスでは、フランス系のVeoliaやSuez、オーストラリア系(現在はドイツ電力大手の傘下)のThames Waterなど主要3社が「水バロン」「水メジャー」などと呼ばれ、その3社だけで世界中の2億人以上の人々の水道を担う状況にある。Veoliaなどはフランス・パリの水道事業を請負い、日本では愛媛県の浄水場委託管理なども請負っている。
20. しかし、最近、世界中で水ビジネスを展開する多国籍企業はシェアを下げつつある。それは発展途上国での水道事業民営化がかなり割合で失敗しているからである。例えば、ボリビアのコチャバンバ市では、民営化が結果的に料金値上げにつながり、水道料が最低賃金の四分の一程度まで高騰する事態となった。また、水道事業を請負った(アメリカ籍企業の)ベクテルの子会社「AdT」が新たな井戸を掘削するなどの乱獲=環境破壊を目の前にした住民たちが不安を抱き、それが結果として大衆運動につながった。そしてその大衆運動が全国的なゼネストや暴動へと発展し、犠牲者を出しながらも最終的にAdTを事業撤退に追いやり、コチャバンバ市の水道の再公営化を実現したのである。ボリビア政府はその代償として、AdTの親会社のベクテルに対し、違約金2500万ドルを支払った。ボリビア市民の代表は 「この2500万ドルがあれば、2
21. 5000人の教師を雇用し、貧しい子供に教育を受けさせ、12万世帯に水道を敷き、雨水でない衛生的な安全な水を提供することができた」と語っている。
22. コチャバンバ市の水道事業の民営化は、まさに疎外の典型というべきものであり、膨大な市民・消費者を犠牲にしてまでも、限りなく企業の自由な活動や儲けを優先するという新自由主義の素顔を垣間見ることができた事態ではないかと考える。
23. コモンズを取り扱う水ビジネスには、必ず倫理上、道義上の問題が生じるのである。
24. 国連や世界銀行などの国際金融機関は、民営化こそが水問題の解決策として、世界中で(特に発展途上国で)、水道事業の民営化を推進する。IMFなどは「金を貸すから民営化しろ」とギリシャに対し水道事業の民営化を迫った。これは借金と引き換えに命を担保に出すのと同じである。
25. また、水道事業は公益事業であり、かなり投資収益率の高い事業である(10%~15%のリターン)。水は儲かるのである。かつ取りっぱぐれの可能性が少ない事業である。儲かるところには利権が絡む。そこには汚職などが常に蔓延るのである。
26.  また、水は、命の源で地球上の生命を育み国民生活や文化の発展などに密接に関係するにもかかわらず、民間企業は、生活者の権利などは顧みず、ビジネスライクに取り扱うのである。それに対し、政府がアクセスするのは事業者までで、生活者がもつ水への権利などに対する侵害は放置されるのである。
27.  さらに、儲けとは関係なく、水に事欠く貧しい人たちにどう水を供給するのかを考えるのが水道事業の、本来の姿であるにもかかわらず、フルコスト・プライシングでかかる費用をすべて受益者に負担させて、結果的に貧困や格差を増大させていたのである。
28.  この講義で感じたことは、社会・経済が著しく発達する中で、地域社会の近代化と引き換えに伝統的な地域コミュニティが崩壊し、それに伴って私たちのコモンズに対する意識が希薄となり、共有財だったはずの自然資源がどんどん私物化、商品化される状況にある。空気や水など生活空間を循環し、繰り返し再利用可能で、誰の私物ではなかった自然資源が商品として扱われ、その利用に格差が生じる。これは疎外であるという他ない。
29.  水問題を検討する中で、永遠に終わらない拡大再生産のスパイラル、いわばネズミが回し車に乗せられて永遠に走り続けているように、経済成長し続けなればならないという今の、資本主義の経済のあり方に何とも言えない憤りを感じ、今後、私たちはどのように生活していけばよいのかなど、人類の在り方、基本的で当たり前な部分を改めて考え直すことが、いま私たちには必要でないかと強く思った。
30.  市場や貨幣、金融など本来は人々を豊かにするはずだった手段が、逆に人類を苦しめている現状について、何らごまかすことなく愚直に直視し、地域社会のあるべき姿や人類と自然との関係、コモンズのあり方などを再考していかなければならないと考える。
31.  5月20日(金)第3限「世界の水資源の危機」 山本講師
今回は世界水資源の危機、第2回目の講義である。
32.  この講義は、水セクター、いわゆる上下水道事業等の改革に焦点をあて、民営化という手法ですすめられている水セクター改革を批判的に検討するものである。
33.  特に90年代以降、民営化という手法で水セクターの改革が進んでいる。これは先進国、発展途上国を問わない。むしろ発展途上国で取り入れられてきた新自由主義的な手法が、先進国へと逆輸入されているような状況である。
34.  先進国の水セクターが抱えている問題は、財政赤字による財源問題や老朽化した設備の更新という問題で、そこへADB(アジア開発銀行)や世界銀行、IMFなど国際金融機関と多国籍企業とが連携してビジネスチャンスを広げているのである。安倍政権などもインフラの輸出を成長戦略の中心に据えている。
35.  現状の水セクターの改革は、水にかかわる公的なサービスを私営化、営利化してしまうというプライバタイゼーションを推しすすめるという方向で進んでいる。プライバタイゼーションとは、社会福祉事業や公益事業をたんに民間に売却あるいは委託するものではなく、そこへ市場経済原理を導入することを意味する。例えば、社会福祉などにおいて、結果として給付の引き下げや適用範囲の縮小し、公的支援や補助といったものを大幅に削減して、その分、利益優先の市場の原理を導入するというものであり、水セクターの場合においては、水利権などで水の私的所有を肯定し、そこへ市場機構を働かせて水利権売買や水の商品化を実現させることをめざすのである。
36.  現にIMFはギリシャに対する緊急融資の際に、ギリシャに対し水道事業の民営化をコンディショナリティ(融資に当たり、融資利用国が実施すべき、経済安定化計画実施の義務づけなど政策的合意)として課したのである。
37.  フィリピンのマニラ東地区においては、三菱商事とユナイテッド・ユーティリティーズ(イギリス)との合弁会社が水道事業を請負い、西地区ではスエズが請負う状況にある。民営化前の水道料金は、8.78ペソで、1997年の民営化時には2.32ペソと値下がりした。しかし、経年するごとにドンドン値上がりし、2008年には26.979ペソと当初の10倍以上の価格になった。
38.  その原因は、フルコストプライシングによるものであり、例えば新設した水道設備の設置費用等のコストも水道料金に加算しているのである。また、為替レートの変動も料金引き上げの原因となる。それは料金収入が現地通貨のところ、水道事業を請負う海外の企業はドル建てで世界銀行やADBから融資を受けている。融資の返済はドルでしなければならず、現地通貨が暴落した場合、外貨建ての負債は膨らむこととなり、それが利益減少に直結するからである。
39.  1990年代末頃からの発展途上国の通貨危機に対して水ビジネス資本は事業契約の更改、更新を頻繁に起こしている。なぜなら融資が返済できないからである。また、契約どおりに新規の水道設備が敷設できなかったことなども通貨危機であるとして正当化し、その結果、現地政府や住民との軋轢が高まり、最終的には撤退するのである。撤退すると無責任にも違約金(契約継続していたら出たであろう利益)を請求し、負債などを置き土産として残していくのである。
40.  ボリビア(コチャバンバ)やモザンビーク、インドネシア(ジャカルタ)、タンザニア(ダルエスサラーム)、カザフスタン(アルマトイ)などの発展途上国の多くで、また先進国のアメリカ(アトランタ、インディアナポリス)、フランス(パリ、グルノーブル)、ドイツ(ベルリン)、スペイン(アレニス・デ・ムント)アルゼンチン(ブレノスアイレス、トゥクマン)などにおいても再公営化されている現状にある。世界中の約180もの都市で再公営化が実施されているのである。
41.  それらは、水ビジネス資本の政治家に対する汚職などの腐敗や非合理かつ不透明な料金の引き上げ、水質の悪化、設備投資に関する契約の不履行など水ビジネス資本の儲けを優先するあまりに身勝手な振る舞いに対して住民たちの怒りが爆発し、料金支払い拒否や抗議行動、訴訟活動など民営化反対の住民運動がいたる所巻き起こったからに他ならない。
42.  公営水道が機能不全に陥る主な原因は、漏水や盗水、料金収受の効率の悪さなど無収水率が上がることにある。いかに無収水率を下げられるのか水道事業の肝といっても過言ではない。
43.  北九州市などはカンボジアで無収水率を引き下げることを支援している。プライバタイゼーションとは違うアプローチの仕方での支援であり、典型とすべき形の一つである。
44.  水道事業の場合、水の効率的な供給については考慮しなければならない大きな要素ではある。しかし、それを市場原理に任せた形で解決するということが倫理的な問題を生じさせるのである。それは、民間企業における優先順位の付け方が大きく影響する。営利企業は、いずれにしても利益を最優先するのであり、例えば、インフラを整備する場合においても儲からない貧困地区ではなく、儲かる都市部や工業地帯を最優先するのという市場の原理に基づくのである。それで本当に水を最も必要としているところへ水を届けることになるのか。すべての人のRights to Waterは保障されるのかという疑問は、いまの水セクター改革の在り方に付きまとう。
45.  また、いつでも撤退できるという民間企業は、水道事業に課されている地域コミュニティの維持・繁栄などについても責任は取らない、というよりも取れないのであり、もって責任ある立場で水供給などできないのである。
46.  水道事業等の公益事業を民営化する場合、地域住民の参加と関与が中心にならなければならない。民間企業が参入してきたとしても、住民たちによるNGOや組合など非営利組織が官とパートナーシップを結ぶことで、民間企業を管理監督し暴走を抑制することができる。公益事業をあるべき方向へと誘導することが可能になる。
47.  いま日本社会では地域コミュニティの疲弊が社会問題となっている。それは公共的なサービスが地域の隅々まで行き届かなくなったり、脆弱になっていることが大きな原因であると考える。それは行政の問題だけなく、地域の人々の関係が希薄になってしまっていることなども大きく影響しているように思える。
48.  いまの社会は、社会が完全に市場の論理によって支配され、いわば市場が社会を完全に従属下におく現状となっている。市場は社会=人々の生活をよくするための手段であり、本来、社会が市場を従属下に置かなければならない。しかし、それがあべこべになり、手段のはずだった市場が目的になってしまっているのである。このような実態が公共的サービスを脆弱なものにし、地域の人々の関係を希薄にさせている。
49.  話は飛躍するが、今回の水セクターの改革で、世界の各地で生じている諸問題についても、いまの、社会と市場とのこのあべこべな位置関係から生ずるものと考える。
50.  この学びを受ける中で、水道事業など公益事業を永続的に行ない、かつそのサービスにおいて格差を生じさせないためには、公益事業への地域住民参加が必要不可欠であると感じた。また、それは地域社会を市場から独立させることにつながり、自立した地域社会の形成に資するものである。そして、そのような地域社会の立ち位置が地域コミュニティ再生への道筋の一つであり、ひいては持続可能な共生社会に変革させる原動力となると考える。
以 上

・・・・・・・・・
 以上でお分かりになるように、本校の講義は非常に熱の入った、中身もぎっしりと詰まったものです。是非、聴講にお出で下さい(2016年6月30日、学長記)。