アフリカの社会的連帯経済の現況

モロッコの社会的連帯経済の国際フォーラムの事例紹介

大阪労働学校アソシエ講師 斉藤日出治

はじめに
 アフリカにおける社会的連帯経済の活動状況については、日本ではほとんど知られていません。わたしの知人の土手香奈江氏は、カメルーンの首都ヤウンデに三年ほど在住して、国際NGOIPD(Pan African Institute for Development[発展のための汎アフリカ機関]) で活動しています。その土手氏から、モロッコ大学で開催予定の社会的連帯経済のシンポジウムの案内文が送られてきました。アフリカでの社会的連帯経済の動向を知る貴重な手がかりになりと考え、フランス語で書かれたその案内文の主要部分を邦訳してここにお伝えします。
 紹介に先立って、この国際フォーラムの取り組みからわたしたちが何を学ぶことができるのかについて、いくつか述べてみたい。

1 グローバル市民社会の胎動
このフォーラムは、アフリカと西ヨーロッパにまたがる地域の大学の研究者と社会的連帯経済の活動家が交流するフォーラムであり、それぞれの地域に根ざすと同時に、国家を超えた地域間の社会的連帯経済の経験を交流させるこころみであり、そこにトランスナショナルな市民社会の胎動を読みとることができる。このフォーラムには、アフリカではモロッコ、チュニジア、セネガル、アルジェリア、コートジヴォワールの各大学、フランスではパリ、リヨン、ポワチエ、モンペリエ、アヴィニョン、ケーン、ストラスブール、マルセイユの各大学、イタリアのボローニャ大学、スペインのバルセロナ大学などの研究者が名を連ねている。日本の社会的連帯経済の研究がいまだに少数の研究者個人の次元にとどまっている現状を鑑みるに、研究者の大学間ネットワークを組織するその力量に圧倒される。
 それだけでなく、今日では、市場のグローバリゼーションのゆきづまりが、イギリスのEU離脱やトランプ大統領の誕生に見られるような主権国家の強化をもたらしているという動きだけが一方的に注目されているが、このフォーラムは、市場のグローバル化でも、主権国家の強化でもなく、地域の社会的連帯経済に根ざしつつ国境を越えた地域間のネットワークをはぐくむ動きが着実に進められていることをうかがい知ることができる。

2 アフリカと西ヨーロッパの連携による移民・難民問題のオルタナティブな解決策の模索
 資本のグローバルな移動に対応した労働力の自由な国際移動の推進でも、国家の監視を強化することによる移民・難民の排斥でもなく、社会的連帯経済という経済と社会の仕組み作りを通して、移民・難民問題の解決を図ろうとする方向がここに明示されている。地域、ナショナル、トランスナショナルという多次元的な広がりにおいて市民権と民主主義を柱にした経済と社会の仕組みづくりこそが、移民・難民問題を解決するという方向が明示される。

3 社会的連帯経済を担う主体を育てる教育への注力
 新自由主義が市場取引の無制限の自由を理念に掲げて出現してから半世紀近くが経過するが、この市場原理にもとづく経済と社会の仕組みが格差と貧困の拡大、深刻な環境危機、大量の難民の創出を招いた。社会的連帯経済は市場に代わって、市民権と民主主義を原理とする経済と社会の仕組みづくりを提言する。そしてこの国際フォーラムでは、その仕組み作りを担う主体を育てるための教育・研究のありかた、職業教育のありかたが模索されようとしている。たとえば、大学の学問研究領域の分断は、社会的連帯経済の探求において障害となる。資本の利潤追求のための職業分類は、社会的連帯経済の職業には適合しない。そのような学問領域の再編や職業分類の改変を通して、社会的連帯経済の担い手を育てていく道筋が築かれようとしていることがわかる。

以下に、モロッコの社会的連帯経済の国際フォーラムの呼びかけ文を紹介したい。

主催
社会的連帯経済の大学間ネットワーク(RIUESS)
ヨーロッパ-地中海の持続可能な発展と社会的紐帯のネットワーク(2DLiS)
社会的連帯経済のモロッコ・ネットワーク(REMESS)
社会的連帯経済のアフリカ・ネットワーク(RAESS)との協働

社会的連帯経済の国際フォーラム
 マラケシュ(モロッコ中部)のカディ・アヤド大学およびアルザス大学
     2017年5月22
24日マラケシュ(モロッコ)

社会的連帯経済の研究者および活動家の論文投稿と参加への呼びかけ
 参画、市民権、発展-いかにして社会的連帯経済を育てるのか?

 社会的連帯経済は、現在の危機―それは価値の危機であると同時に経済的・社会的・環境的危機でもある―の作用と脅威に立ち向かう市民社会と諸制度によって、今日求められている。社会的連帯経済は、これらの挑戦に直面して、連帯的で持続的で民主主義的な発展のための道を築くことができるのであろうか。

 この問いに答えるために、社会的連帯経済の活動家と組織が社会的連帯経済の育成に参画している。この組織化は、厳密に学術的なものでも、技術に還元されるものでもない。今日、社会的連帯経済を育てるということは何を意味するのであろうか。
このフォーラムは、社会的連帯経済の教育に参加する研究者と活動家間の交流を通じて、型にはまらず、刺激的な会合をもたらすことを提案する。

・現在活動中の持続可能な発展モデルとこのモデルに結びついた事業モデルとはどのようなものであろうか。
・これらのモデルは、いかなる回路を通って、魅力的なものとなるであろう部門の職業的未来へとつなげることができるのであろうか。
・社会的連帯経済の活動家たちは、いかにして社会的連帯経済に向けた教育の方向づけと実施に介入するのであろうか。
・地中海の南北に所在する大学は、社会的連帯経済のいかなる表象を提言するのであろうか。

社会的連帯経済に向けた教育は、市民権と民主主義にふさわしい価値の多元主義を担うものである。
・もしもそれがユートピアでないとすれば、オルタナティブな経済モデル、斬新な社会的文化モデルを考慮する方向に教育を向・かわせるにはどうしたらよいだろうか。
・社会的連帯経済は、独自な学習方法と能力を必要とするのであろうか。
社会的連帯経済における専門職業化の教育は、とりわけ軍事的経験と学位による職業への参入はどのようなものであるのか。自分の能力を学位取得によって認識したいと望む地方の職業的、連帯的な活動家にとっていかなる道が開かれているのか。
・社会的連帯経済に捧げられる学位において、市民権教育のためにとっておかれる位置とは何か。
・社会的連帯経済は、グローバル化をどのように考察し、地域連帯と国際連帯をどのように結びつけ、移住とそれがもたらす帰結をどのように組み入れるのであろうか。

 地中海の南部沿岸とアフリカにおいて、社会的連帯経済の教育は、多様な分野における職業専門化をもたらすことが期待される。社会的連帯経済の教育はこの期待にどのように答えることができるのか。とりわけモロッコではどうか。それは、同時に、市民社会のイニシアティブと慣習法に根を下ろした伝統的な連帯に支えられつつ、どのように取り組まれるのか。

 このフォーラムは、つぎの三つのネットワーク出身の社会的連帯経済の研究者と活動家の出会いから生まれたものである。
・社会的連帯経済の大学間ネットワーク(RIUESS)
・このネットワークは、フランスにおいて社会的連帯経済の研究と教育の推進を軸にしておよそ30の大学を結集している。
・持続的発展と社会的紐帯のネットワーク(2DLiS)
ヨーロッパ(フランス、イタリア、イギリス、ハンガリー、ベルギー)とアフリカ(アルジェリア、モロッコ、セネガル、チュニジア)の12の大学を結集した国際ネットワーク。
・社会的連帯経済のモロッコ・ネットワーク(REMESS)
モロッコの社会的連帯経済の諸団体を結集し、アフリカの社会的連帯経済のネットワークとも連携している。

マラケシュのカディ・アヤド大学で行われる2017年5月22
24日のフォーラムは、つぎのテーマを共有する。「参画、市民権、発展。社会的連帯経済をいかにして育てるか?」
 このテーマは以下の点を基軸としている。
 1 独創的な発展径路としての社会的連帯経済
 発展の支配的なモデルを批判するだけでなく、それを超えて、社会的連帯経済の育成によって、地方的で、地域的で、国民的で、かつ、あるいは超国家的な連帯にもとづくオルタナティブをどのように築くことができるか。この教育は、とりわけアフリカにおける可能な移行の道を開くためにどのような貢献をすることができるのであろうか。
 とくに注意が向けられるのは、移住、移民の問題であり、地域の持続的な発展のための社会的連帯経済の活動家によって提起されるオルタナティブの問題である。

 2 職業教育
職業教育は、社会的連帯経済における結合された諸職業と諸能力を用意する。それは、社会的連帯経済の実践家と研究者と大学人の結びつきによって支えられている。
 経営などの包括的な能力を社会的連帯経済の独自な必要に適応させるにはどうしたらよいか。この結びつきにとっての障害は何か。共通の価値とは何であり、いかなる言語を用いたらよいのか。どのような職業と専門的認識に、どのような教育が求められるのか。成果とインパクトという点からすると、教育は何をもたらすのであろうか。

3 社会的連帯経済への教育における学際性と、社会的連帯経済の教育による学際性―社会革新の道
 社会的連帯経済の教育は、経験的能力や状況における生き方にもとづいて、理論と実践的学習を結びつけることによって、うちたてられる。それは、専門家の知識と素人の知識の分離をあらためて問い直すことになる。
 ・社会的連帯経済の教育における学問間の分断をのり超えていくにはどうしたらよいか。
 ・相互補完性をうちたて、職業間および学問間の討論空間を切り開くにはどうしたらよいか。
 ・これらの創造的学習過程から生じてくる社会革新の本性とは何か。

4 社会的連帯経済の開放と刷新の源泉としてのインターナショナル
 国際交流は、社会革新、アクション・リサーチ(地域の問題の発見から解決へと至る 学習・研究方法)、集団的創造にとって好ましい、反省的な、異文化間の学習の基盤を提供してくれる。 
 ・社会的連帯経済の育成は、新しい労働空間と持続可能な発展モデルの再構成をもたらすであろうか。
 ・モロッコとアフリカにおける社会的連帯経済の研究と教育にとっていかなる展望があるのだろうか。
 ・トランスナショナルな、とりわけフランスとモロッコの諸経験は、この刷新にどのような貢献をするのであろうか。

5 社会的連帯経済を育成すること、市民権と民主主義を育成すること。
能動的市民権のために必要な能力とは何か。参加型民主主義の実践のためにはいかなる条件が求められるのか。新しいモデルを考案するために社会的連帯経済の諸団体の経験と記憶をどのように伝えたらよいのか。民主主義的統治の学習において、社会的連帯経済のアクターにはいかなる役割があるのであろうか。
 社会的・政治的な構造転換における男女の位置には、格別の注意が向けられる。

以上のすべての投稿された論文と参加の提言は、交流と討論の多様なプログラムの枠のなかで再検討されるであろう