設立宣言と趣旨

「労働学校・アソシエ」は、労働の尊厳を回復させることを目標とする。
労働は、2つの側面から成り立っている。生活の糧を得るべく収入を「稼ぐ」労働と、収入を目的とせず、社会に奉仕する無償で「働く」労働である。
後者は、共同体的つながりが薄くなるにつれて、例外はあるが、基本的に社会から消えつつある。
無償奉仕の労働は、近年になってますます稼ぎとしての労働に移行している。現代では、労働とはこの稼ぎを意味する労働を指している。
しかし、この分野の労働ですら、IT技術の急進展によって、一握りの先端技術者を除き、圧倒的多数の労働者が、労働現場から外に追いやられるか、ないがしろにされるようになってきた。
すでに全労働者数に占める非正規労働者数の比率は、日本では30%台の後半の水準にある。
その結果、生活者として耐えられないほどに、所得格差が大きくなってしまった。一部の富者を除き、貧困が堆積している。かつては社会の中核であった中間層が貧困層に転落している。そのことが、人々の間に憎悪の感情を集積させ、社会を非常に不安定で、とげとげしいものにしている。
このような情況を生み出したものこそ、市場原理主義の無慈悲な横行である。世界に渦巻く暴力の応酬と連鎖という惨事も、過度な市場原理主義が生み出したものである。
その惨事に抗すべく、いまや、世界中の心ある人たちが、明るく希望に満ちた社会を創ろうと、市場原理に代わる別の道を真剣に模索している。
生活者相互の信頼と協力に基づいた協同組織を営み、多くの組織間の連帯によって、人が生きてゆくのに必要な価値を生み出す経済社会を創ろうとする運動が、世界の多くの地域で広がりつつある。
生活に貢献する経済は、この運動に携わる人たちによって、「社会的経済」とか「連帯経済」と呼ばれている。
「労働学校・アソシエ」は、世界で進行しつつある「社会的経済」を広げる運動と連帯して、社会との共生・自立した地域社会の強化・働き生活する場としての協同組合的社会の育成という3つの理念を深めることも大きな課題としている。
日本でも、「仙台・羅須地人協会」、東京の「変革のアソシエ」などの運動との連携を図りつつ、「労働学校・アソシエ」は、労働の歴史を学び、労働の尊厳を取り戻す意欲を持ち、将来の社会を担う有徳の士を育てることを目標とする。
労働を、単に生活水準の向上を実現する手段として見るのではなく、労働そのものに喜びを見出そうとして、1922(大正11)年に賀川豊彦を校長として設立された「大阪労働学校」があった。大阪の地に「大阪労働学校」の労働を喜びにする精神を継承することは、労働の尊厳が軽視されている現代において非常に重要な意味を持っている。
いま求められている社会の将来の進路は、競争から共生・協同型への経済・産業・社会構造の転換である。
この転換を求めて社会を変革する運動が「全日本建設運輸連帯労働組合・関西地区生コン支部」(関生=かんなま)型労働運動であった。
この運動は、大企業による中小企業の収奪システムを抑制し、日本社会の支配構造を打破することを課題としてきた。近畿の生コン関連産業の政策運動は、日本産業で企業数・従業員数の面で圧倒的な部分を占める中小企業が救われる道を切り開いた。
2015
年は、関生支部結成50周年という記念すべき年であった。それを記念して、設立されたのが、新労働会館、そこに入居する労働学校、図書館である。
「労働学校・アソシエ」は、関生支部の理念を踏襲し、国家に頼らず、大企業に依存せず、自立し・自覚した社会人の連合を組織できる人材を養成する。

201641

開校時の賛同人

伊藤 誠(学士院会員・東京大学名誉教授)
浦部 法穂(神戸大学名誉教授・元副学長)
大内 秀明(東北大学名誉教授)
大藪 龍介(福岡教育大学元教授)
加藤 哲郎(一橋大学名誉教授・早稲田大学大学院客員教授)